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未来図鑑

【卒業生インタビュー】

イラストレーター・刺繍作家
原公香

制限があるほうが、
自由に描けることに
気がついた

成安造形大学でイラストレーションを学んだ原公香さん。しかし、彼女が描くかわいい動物や花の作品に使われるのは「糸」。画材の一つとして糸を使う斬新なアイデアもさることながら、その色使いは絵の具のように自由で、鮮やか! イラストレーションと刺繍が交差する、彼女にしかできない表現を確立し、個展のたびに違う一面を見せる制作の引き出しには、いったい何が入っているのか。今の表現にたどり着いた経緯と、彼女の絵に対する考え方、その原点に触れてみたい。

「rainy day」(2014年)

—原さんが糸を使って作品をつくりはじめたのは何がきっかけだったんですか?

大学4年生のときに、絵の具や色えんぴつなどいろんな画材を使って絵を描くミクストメディアという授業があったんです。その授業の最終課題のときに、これまでとは違う画材を使いたいと思って、家で画材になりそうなものを探していたら、小学生のときに使っていた裁縫箱を見つけて。開けたら中に白と黒の糸だけが入っていました。それを見た瞬間、糸で絵を描いたら違う感じになるかもしれないって思いついたんです。初めて糸を使った作品は、布に色えんぴつで絵を描いて、ふちどりを糸で波ぬいみたいにしました。

—てっきり刺繍作家さんに影響を受けて糸を使いはじめたんだと思っていました!

よく言われますね。私の場合、刺繍をしたいと思ったのではなくて、絵を描くための手法として糸を使いはじめたので、感覚的には今も絵を描いているほうに近いですね。作業としては針を刺しているんですけど。

—糸を使って絵を描くのは最初からうまくいったんですか?

それまで裁縫はボタンを付けるくらいしかやっていなかったので、ぜんぜん思い通りの線が描けなくて。でも、それが面白いなって思ったんですよね。

—もどかしいじゃなくて面白いだったんですね!

そうですね。糸の線は手では描けない独特の味わいがあって、そこに魅力を感じました。

—今描かれている作品は主に糸を使っていますよね。

糸のほかに、布やビーズ、スパンコールもアクセントとして使っています。下地は真っ白の布なので、大まかに描くモチーフをアクリル絵の具で描いて、その上から糸を縫っていきます。はじめは線だけだったのが、使う糸の量が増えたので、いろんな人から「糸を染めてもっと自由に色を使ったら」って言われるんですけど、あえて市販の糸しか使わないですね。

—それはどうしてですか?

私にとっては、ある程度制限があるほうが、自由に描けることに気がついたんです。絵の具で描いていたときは、色を混ぜて自由に色を作れるので、見たものを見たままの色でしか描けなくて。でも市販の糸だけで描こうと思うと、ある色でどうやって表現するかを考えるので、自分にしかできない色使いができるようになりました。

—原さんの作品は色使いがキレイですよね。色はどうやって決めているんですか?

最初に想定している色はあるんですが、進めていく中でどんどん色を足していきます。あと、いろんなテキスタイルを絵の中に取り入れているので、テキスタイルによって引き出されたりもします。例えばピンクを入れようと思っていなくても、テキスタイルの中に入っていたら取り入れたり。自分が意図していなかった色が入ってくることで、仕上がりは想像を上回る作品になりますね。

—縫い方も自分で編み出したんですか?

糸を使いはじめた頃に、手芸の本でステッチのやり方を調べたら、工程も多いし文字がいっぱい書いてあったので、見るのをやめました(笑)。とりあえず塗りつぶす感じで縫っていったらいいかなと思って。イラストレーションクラスだったので、刺繍を教えてもらうわけにもいかないですしね。全部自己流です。筆で描くのに比べると、一針ずつ縫うのは時間も随分かかるんですけど、つくるのは楽しいですね。

—思い通りに線も描けない、色数も少ない、時間もかかる。だけどその不自由さが原さんの作品にとっていい効果を生み出しているんですね。

絵の具で描いても、自分の絵に納得がいってなかったんです。いろいろ試してはみたんですけど、そのイマイチさがどこなのかが分からなくて。でも糸を使いはじめてからは、自分に合っているのを自覚できたし、作品に対して自信が持てるようになりました。

—糸を使う作品を見た周りの人からの反応はどうでしたか?

「いいね」って言ってもらえる機会が増えました。あと、在学中の頃から「玄光社」が出している雑誌『イラストレーション』の誌上コンペに、何度も応募していたんですが、それまで絵のテイストを変えても全くだったのに、糸の作品で応募したらいきなり入選して!これでやっていこうと改めて思いました。

—糸を使うアイデアが原さんのイラストレーター人生を大きく変えたんですね。その後イラストレーターとしてのお仕事につながったきっかけは何だったんですか?

はじめての仕事はHPをみて依頼がきました。東京の方からメールでの依頼だったので、こんなこともあるんだなって! 春夏秋冬シーズンごとに4種類の花と小動物をモチーフにしてフォトアルバムの表紙を描くという内容で。これまでも作品で花は描いていたんですけど、具体的な名前のある花を描いたことがなかったので、不安は少しありました。でも仕上がりを見て担当の方がすごく喜んでくださったので本当によかったです。HPに仕事の実績として紹介したら、それを見てまた仕事の依頼がきて!

—仕事が仕事を呼ぶって理想ですね。

それをきっかけに花と小動物を描いて欲しいという仕事の依頼が増えたので、最初の仕事の影響力は大きかったですね。

—作品で描くのとお仕事で描くのとでは違いはありましたか?

自分でゼロから考えるよりも、仕事の依頼のほうが私には合っていると思いました。糸の色の時と同じで、制限があるほうが自由度が増していく感覚があって。オリジナルの作品を描くのも好きなんですが、誰のために、どういう目的でみたいな、とっかかりがあるほうが、描いていてより楽しいですね。

—ちなみに、これまでのお仕事はイラストレーターとして依頼がくるんですか?それとも刺繍作家?

いろいろですね。刺繍作家として依頼がくることもあればイラストレーターとして依頼がくることもあります。私はイラストレーターになりたかったし、イラストレーションを勉強してきたので、仕事や展示の依頼がくるたびに、刺繍作家と呼ばれるのは最初抵抗がありました。でも自分から限定しなくてもいいのかなって、仕事をしていくなかで気がついて。別にどちらでもやることは変わらないので、自分から「刺繍作家ではないです!」っていうと、できることも限られてしまうので。見た人がどう捉えるかは自由なので、今は両方で名乗っています。結果的に入り口が2つできて良かったです。

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—今後挑戦してみたいことや、やってみたいお仕事はありますか?

最近小さめの作品しか描いていないので、展示に向けて大きい作品を描きたいですね。これまでA3くらいが最大なので、もっと大きい作品に挑戦してみたいかな。あと仕事では、学生の頃から絵本作家への憧れがずっとあるので、絵本をつくってみたいです。できれば自分でお話をつくるのもやってみたいですね。

—最後に、原さんが2017年4月、イラストレーション領域に入学するならば、専門コースと、専門コース以外に複数の授業を選択できる他のコースは、それぞれどれを選びますか?

やはり「メディアイラストコース」が専門ですね。そのほかのコースは「マンガ・絵本コース」と「アートイラストコース」かな。絵本にも憧れがありますし、展示もやっているので、「アートイラストコース」の分野も学べたら、今の活動に全部つながるなって思います。

原公香 Kimika Hara

京都出身・在住。2007年 成安造形大学 イラストレーションクラス卒業。卒業後フリーのイラストレーター・刺繍作家として活動をしながら、関西を中心に毎年企画展や個展を開催。主な仕事に「TOYOTA自動車 2015年カレンダー」(2014年)、「デザインアルバム 花言葉シリーズ(プラザクリエイト)」(2014年)、「阪急17番街 ウィンドウビジュアルのイラスト」(2015年)、小川糸著「リボン」(ポプラ文庫)装画(2015年)など。
http://kimikahara.blogspot.jp

取材・文:西川有紀(G_GRAPHICS. INC)